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故郷の懐かしい味
醜い魚でうまい料理 鮟鱇
文/森沢薫

冬になると、鍋を食べたくなるのは当然な事だろう。日本中、鍋の話になると、「西の河豚、東の鮟鱇」という言い伝えがある。河豚料理は経済最盛期の九〇年代のバブル期には既に高級な鍋料理、刺身として人気を呼んでいた。一方、鮟鱇料理は、いまだに食通の中でしか馴染みのない一品かもしれない。

口が大きく、頭が平たく、体表はヌルヌルしている。一言で言えば醜い、太っちょの魚である。現物を見たら、とても美味しそうな魚に見えないのは事実だ。ところがこの魚は昔から、料亭や旅館にと
って、高級食材で珍重されるほど美味な魚である。

鮟鱇料理は「常磐路のあん城県の海岸沿いの地域の伝統料理であったが、二十世紀末以降はその他の地域でも食べられるようになった。茨城県中部の黒潮と親潮が交わる大洗町・鹿島灘沖はプランクトンが豊富で、その地域で捕れた鮟鱇は特に美味しいとされ、鮟鱇の中でも高い値段で取引されていた。最近は、地球温暖化の影響で、北部の日立市からいわき市の平潟辺りで漁が豊富になってきたらしい。その近くに行くと、鮟鱇料理を看板料理にするホテルや民宿が林立している。

鮟鱇という魚にもう一つの特徴がある。それは捨てるところがない経済的な魚と言われていること。「あんこうの七つ道具」というのは「身」「皮」「肝」「鰭」「鰓」「卵巣」「胃」のことをさし、それぞれの食感が違い、旨みも違い、単品の創作料理にしても、鍋の具にしても、味覚の神経に刺激を与える位の美味しさがある。また、鮟鱇の身そのものは水分の多い白身で、脂質量は低い。肝の方はコレステロール値を下げ、血栓予防に効果的な脂質が大量に含まれている。また血液をさらさらにするI PA、脳の働きをよくするDNA、美容によいビタミンA、D、Eも沢山富んでいる。簡単に言えば、健康食材であ
る。


鮟鱇を使った料理は、あん肝の酢の物や、から揚げ以外、最も人気で、有名なのはやはり「鮟鱇鍋」だろう。産地から離れ、都会では、醤油味の「あんこうちり鍋」は一般的である。昆布だしで水炊きし、ポン酢醤油にもみじ、浅葱等の薬味を添えて頂く。そして、鍋の具材を食べ終わった後、スープに雑炊! 鮟鱇鍋の最後の最高の楽しみだとも言えるだろう。

昔は、鮟鱇の水揚げ地、北茨城の平潟地方の漁師たちは、水を使わず、鮟鱇の身や野菜から出る水分と味噌だけで鮟鱇鍋を作っていた。このあん肝の甘みが効いた濃厚な味、漁師達が考案した「どぶ汁」を地元の人々が「これぞ本当の鮟鱇鍋!」と自負している。今でも、こういう味噌味の鮟鱇鍋を出す民宿や旅館がたくさん存在している。こってり系が好みの方なら、是非一度お試し下さい。ちなみに、私はさっぱり系のポン酢味が好みである。


鮟鱇の話に、一つ言い忘れたことがある。それは鮟鱇の「つるし切り」! 前にも書いたが、鮟鱇は無駄の無い魚である。身は勿論、皮も内臓も、さらに鰓まで食することができる魚。しかし、新鮮な鮟鱇はぬめりが強く、また板の上ではさばく事が困難だ。そこで鮟鱇を吊るす。そして、出刃一本でさばいてゆく。これぞ、板前の腕の見せ所だ! 一流の板前ともなれば、ものの十分程でグロテクスな体は身、皮、骨、内臓と分かれてしまう。その技はシ
ョーのように見る価値がある。しかし、中々そういう機会に巡り合うことができないね。最後に、一本の縄に鮟鱇の顎の骨だけ残す、「鮟鱇の七つ道具」がきれいに分解されて、目の前に並んでいる風景を、一度見てみたいだろう?私も!
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