虹 口区虹口港と沙涇港、2本の水路が交差するところに鉄筋コンクリート造りの壮観な建築物がある。これが“1933”であり、70年前は重厚な英国式古典風格の外観をもつアジア最大の「工部局屠畜場」として、当時は最も格調高い「老場坊」だった。長期間修理も施されなかったため、時代の移り変わりとともに人々の記憶から忘れ去られていたが、2006年の大がかりな「原形維持改修」後、「極東最大の屠畜場」は現代的風貌へと変身を遂げ、再び上海のホットな話題スポットとなった。
新旧時代が交錯する
当初からここは屠畜場として設計されているが、英国古典式建築の趣が漂う、バシリカ式特徴をもつ外観からは、屠畜場だったという粗っぽさを誰にも感じさせない。輪郭が正方形の“1933”、正面の壁に刻まれた「19参Ⅲ老場坊」、この漢数字の「参」とローマ数字の「Ⅲ」で構成された標識が、二種類の文化の結合を象徴し、新旧の時代が交錯する。
回転ドアから“1933”に入る。入り口傍にはCigar Ambassadorと書かれたシガーバーがあった。木の階段を数段行くとバーカウンターの右に貯蔵棚があり、その中には香り豊かなハバナ葉巻きと良質手巻きシガーが陳列されている。品種の豊富なラム酒と葉巻が、ネオンの灯りに照らされとてもきれいだ。軽快なジャズ伴奏を耳に、柔らかな黒皮ソファに座る。フォンセカNo.1を注文、そして芳醇なスコッチ・シングルモルトウィスキーを一杯やるのは極楽気分だ。
円形のデザイン
大ホールを通り“1933”内に入ると昔の粗末な材質が目に飛び込み、全く正反対の感覚だ。老場坊の周りは正方形、建築内部は円形設計で、高低が不揃いだがバランスがよくとれている。内部空間は内外2つの円盤で「回」という字のような3層に分けられてある。
屠畜場は英国建築士Balfoursによる設計で、機能性理念に基づく。2キロを超える長い屠殺ラインがあり、薰製、消毒、搾油、凝血、包装、収納、貯蔵、検査、解剖室等と各種設備がすべて揃っている。
「牛道」とよばれる主建物の斜面では、家畜が斜面上で滑るのを防止するため床を極度に粗くしてある。牛道は五人並んで歩ける幅があり、すべての通路は空中からの鳥瞰図で正24辺形になっている。どの辺の長さも15mほどだ。牛道を歩けば、延廊の隙間と周囲壁の丸い穴から差し込んだ陽光が、石の斜面に照らし出され、眼前に光と影のまだら模様が広がる。
螺旋形の牛道に沿って回転しながら上ると、5階には透明な舞台がある。周りすべてが大きな窓で、足元の床もガラスで出来ている。階下の客から階上で歩く人々がはっきり見える。
特色ある小店が並ぶ
もともと収納、貯蔵、検査、そして解剖にも使われていた場所に、今では特色ある小店が並んでいる。1階回廊のles luciolesという個性的な店には、「不思議の国のアリス」の手作り首飾りが陳列され、また水道管とアルミ蛇口で作られたハンガーに流行の洋服やレトロなバッグが、また銀色のペンキで塗られた桐の枝にもネックレスが掛かっている。
この他、アメリカンアパレルのようなブランドのアトリエもある。そこで洋服や工芸品の製造各過程を見学でき、一枚の銀ボタンが出来上がるまでの細かな作業も見られる。その他に、ここではオーダーメイドもしてくれる。
店内には昔からの古い鉄欄干があり、まるで過去と現在とをつなぐ時間のトンネルを歩いているような感覚だ。老場坊の開放された空間は、多くの観光客を惹き付けているが、快適な椅子に座りコーヒーを飲みながらの読書もよし、またカメラを手に創造を楽しむのもよい。外国人客は中国の京劇、武術等といった伝統文化学習クラスの受講も可能だ。
「三」の歴史感は「Ⅲ」の時代感と結びつき、“1933”はいたるところに生命力が溢れている。
老場坊の新しい用途
改修され一新した老場坊は世間の注目を集め、イベント開催場所としてのホットスポットにもなっている。ここで始まった「公益跳蚤会(慈善ノミの市)」は毎月定期的に行われ、入口で客が募金する金額が「跳蚤会」のチケットとなる。主催者は、全チケット料金と出店代金を出稼ぎ労働者のための子女学校へ寄付し、学校の教育経費に当てられる。
「跳蚤会」(ノミの市)が開かれる周末、老場坊の3階は盛大なパーティのように賑やかで、約30店舖が3階ホールに所狭しと並ぶ。昼11時近くに始まるノミの市の人出は100人ほど、ピーク時は約200人以上にもなり、それが午後2、3時まで続く。夕方5時の終わりまで掘り出し物を探し続ける人たちもいる。
精巧な手作り品「晴天娃娃」(照る照る坊主)のそばには《灌籃高手》(スラムダンク)の漫画があった。ベルサーチのしゃれた服を手元に置き、片手でタイの花柄スカートを取り上げる...その他、中古CD、ゲームソフト、テディベアのぬいぐるみ、ネックレスや化粧品、野球帽、ジーパン、はがき、そして食べ物、日用品、おもちゃ、服等、露店には『無い』ものがない。
掘り出し物が見つかる絶好の場所
各地からの客は20代の若者が大多数を占め、その約80%が女性だ。宝探しをするような感覚で彼女たちの購買欲を満たしてくれる。ボーイフレンドとジーンズを買う女性、母親にハンドクリームを買ってあげる娘、自分の装飾品を選ぶ女の子など、多くの女性がグループで来ている。
ここでの商売方法は様々だ。若いカップルが店主の中古CDの露店の前を通りかかった女の子が、CDを探している。CD店主の女性はその子が持っているぬいぐるみが気に入ったようだ。店主のボーイフレンドは、そのぬいぐるみを「店のマスコット」として飾ろうと、女の子にぬいぐるみと商品のCDを交換してもらうよう頼んでいる。他の露店の前では、店主が100元のつり銭に困っていたため、客の若い男性は着ている服のポケット中からどうにか22.6元を探し出した。店主は28元の値札が付いているシャツを渡し、割り引きだと言って笑った。
店主たちに言わせれば、「跳蚤会」(ノミの市)は完全に肉体労働だそうである。持参した低い椅子に座り、多忙な店主となれば絶えず腰を曲げて作業しなければならない。かなり疲れるが、彼らはいつも笑顔だ。ここでは都市管理職員がやってくることもなく、安心して露店を出せると冗談を言う人もいた。忙しい一日が終わり、店主たちは他の露店に駆けつけ、お菓子や飲み物で互いに疲れを癒す。実は「蚤」こそが主役で、「市場」は店主と客が時を過ごす場所にすぎない。
|